スーツの後ろ姿の印象を決めるベント
スーツの後ろ身頃の裾部分に切れ目が入っているのはご存じだと思いますが、これを「ベント」と呼びます。
英語では「vent」と表記し、英訳すると「通気孔」「(空気を抜く)穴」という意味です。
スーツ発祥の地はイギリスと言われていますが、その昔イギリスの兵隊が乗馬の際に上着の裾が邪魔にならないよう切れ目を入れたとの説が有力です。
前から見ると分からないのですが、動いたり座ったりするとベントの有る無し、またベントの種類によってシルエットに大きな影響を与えるため、スーツを作る際には重要なポイントの一つとなります。
またスーツにシワがつきにくい効果もあります。
スーツが細身なのか、ゆったりとしたタイプのものかによっても相性のいいベントがあるので、知っておくとスーツをオーダーメイドする際に役立ちます。
スリムスーツに多いシングルベント
別名センターベントとも呼ばれる「シングルベント」は、後ろ身頃の裾中央部分に一本切れ目が入っているタイプです。
どの年齢層にも合う基本的なタイプで、多くのスーツがこのシングルベントタイプと言えるでしょう。
その昔イギリスで乗馬の際に動きやすくするために作られたベントはこのタイプでした。
そのため別名「馬乗り」とも呼ばれています。
シングルベントはシングルスーツのみに対応しており、すっきりとした細身で着丈が短いスーツとの相性が良いようです。
切れ目がないと動く際に引っ張るような感覚がありますが、ベントがあることで椅子や床に座った時にゴワゴワ感がなくシルエットへの影響も少なくなります。
シングルベントの一番上部分がカギ型になったタイプを「フックベント(フックドベント)」と呼び、モーニングコートやアイビージャケットなどに使用されています。
よりクラシカルな趣を演出するのが特徴で、多くのアメリカ系ブランドで採用されています。
ビジネスのシーンで活用するスーツには、主にこのシングルベント、もしくは次でご紹介するサイドベンツを選ぶことが多いです。
サイドベンツなら優雅な後ろ姿を演出
スーツ後ろ身頃サイドの裾部分に切れ目が入っているタイプを「サイドベンツ」と呼びます。
ベンツとは英語ベントの複数形になり、スーツの両サイドに切れ目が入っていることからこう呼ばれています。
元々のルーツは腰に提げた剣を抜き差ししやすくする目的で作られたようで、日本では軍刀を使用していた時代に普及し、別名「剣吊り」とも呼ばれます。
一般的にブリティッシュブランドで採用されており、両脇に2つの切れ込みがあるため、風にひらひらとなびく様子は後ろから見ると大変スタイリッシュです。
またパンツのポケットに両手を入れた時のシルエットがかっこいいことから、ビジネス用やプライベートではデートシーンなどにも活用できます。
足を長く見せる効果もあり、スタイル良く優雅な着こなしを目指す人にはもってこいです。
サイドベンツはシングルスーツ、ダブルスーツどちらも対応可能なので選択肢の幅が広がります。
またスーツのベントは基本的に開いていない方が良い着こなしの状態とされているので、お尻の大きさが気になる人はサイドベンツを選ぶと体型をカバーできるという利点もあります。
ファッショナブルでありドレッシーなノーベント
ノーベントとは読んで字のごとく、後ろ身頃の裾に切れ目がないタイプのスーツです。
「割り」を避ける祝い事ではこのノーベントタイプが縁起的にも好まれており、礼服やタキシードなどのフォーマルなスーツに多く見られます。
パーティーや結婚式などでは動きを気にする機能性よりも、場の雰囲気に合わせた重厚感を出すデザインの方が重要視されます。
シングルベント、サイドベンツと比較すると、最もクラシカルでドレッシーな印象を与えます。
ノーベントはソフトタイプのサイズ感がゆったりとしたスーツ向けと言えるでしょう。
タイトなスーツでは窮屈感が出てしまいますが、特にダブルスーツとの相性の良さは格別です。
またサイドベンツと同様、腰回りをすっきりと見せる効果があるので、お尻の大きさが気になる人に向いています。
切れ目を入れないことで人の視線を集めにくく、お尻の印象を薄くする効果も期待できそうです。
自分にあったスーツをオーダーメイドしよう
スーツにはその時代ごとに流行がありますが、流行を取り入れながらも着る人の体型にあったもの、着る人の品格を引き出してくれるようなスーツに仕立てたいものです。
もちろん着心地の良さも考慮した上で、自分だけのオリジナルスーツをオーダーメイドするのは最高の贅沢です。