ベントにはさまざまな役割があり、座った時などにジャケットが突っ張らずに動きやすくなったり、スーツがシワになりにくく、シルエットが崩れにくいなどのメリットがあります。
ベントの長さは、ジャケットの着丈1/3程度の長さが標準になっていますが、スタイルに合わせて、長さが変わることもあります。
また、体型やスーツのシルエットによって、似合うベントの種類が変わるので、自分の体型やスーツスタイルに合わせてベントを選びましょう。
ベントの起源
スーツには、もともとベントはありませんでしたが、乗馬の時の裾の突っ張りや、窮屈さを解消するために、ジャケットの裾に切れ目を入れて、動きやすくしたのが起源だと言われています。
そのため、スーツの真ん中に1本切れ目を入れている「センターベント」は、別名「馬乗り」とも呼ばれています。
また、ベントには、両サイドに2本の切れ目を入れた「サイドベンツ」がありますが、このサイドベンツは、剣を腰に差した時に、スーツの裾が引っかからないように作られたという説があり、別名「剣吊り」とも呼ばれています。
ベントはただデザインとして作られたのではなく、スーツの歴史の中で、着心地を良くするために作られたことがわかります。
現代でも、座った時に裾が邪魔にならなかったり、シルエットを崩さずに着るための大切なディティールのひとつです。
ベントの種類
先述の通り、ベントにはいくつかの種類があり、その種類によって相手に与える印象が変わってきます。
また、スーツスタイルによって、ベントが違うこともあります。
センターベント
※出典
Pitty Savile Row
スーツの真ん中に切れ目が入ったものを「センターベント」と言います。
センターベントは、乗馬の時に動きやすいように作られたもので、ビジネススーツでは、一般的に採用されているベントになります。
シングルスーツの主流となっていて、特にアメリカンスタイルのスーツに多く採用されています。
シンプルなデザインなので、後ろ姿がスッキリとした印象を与え、スポーティーな印象になるベントです。
細身で着丈の短いスーツとも相性がいいので、スマートに見せたい場合は、センターベントがいいでしょう。
フックベント
※出典
Pitty Savile Row
フックベントは、センターベントと同じように、スーツの真ん中に切れ目が入ったものです。
特徴は、切れ目の根元がフック(鉤型)になっていることです。
モーニングコートや、アイビースタイルの特徴のひとつとされていますが、アイビースタイルだけでなく、センターベントを、あえてフックベントにしたオーダースーツを着るのもおしゃれです。
スーツのディティールを少し変えるだけで、グッとおしゃれな印象になるので、周りと差をつけたい時にもおすすめです。
サイドベンツ
※出典
考え直す時間はある
サイドベンツは、両サイドに2本切れ目を入れたもので、剣を腰に差した時に、スーツが邪魔にならないように作られたものです。
ベント(vent)の複数形になることから、ベンツ(vents)と呼ばれています。
ブリティッシュスタイルのスーツや、ダブルスーツに多く使われていて、クラシカルな大人の風格のある印象になります。
両サイドが開くことから、センターベントよりも動きやすく、パンツのポケットに手を入れた時にも、スマートにキマります。
また、両サイドにベントがあると、動いた時に足の付け根が見えるので、脚長効果も期待できます。
ノーベント
※出典
Pitty Savile Row
ノーベントは、スーツの裾に切れ目がないものを言います。
ベントは動きやすくするために作られたものですから、タキシードやディレクターズスーツなどのフォーマルスーツには、ベントがありません。
イタリアンクラシックスタイルのスーツでも、もっともクラシックなノーベントのスーツデザインになっていることが多くなっています。
お尻をすべて隠してくれるので、後ろ姿でお尻に自信がない人でも、ヒップの印象を薄くしてくれます。
ビジネススーツには向いていませんが、エレガントでクラシカルな雰囲気を作ってくれるので、フォーマルな場や、プライベートでノーベントのスーツを着こなしてみましょう。
ベントの流行
最近までトレンドになっていた細身で着丈の短いモード系スーツでは、センターベントのものが主流でした。
今トレンドになっているスーツスタイルは【クラシック回帰】、いわゆる正統派のブリティッシュスーツです。
ブリティッシュスーツでは、サイドベンツが使われていることが多いため、主流のセンターベントだけでなく、サイドベンツのスーツを着ている人も多くなっていきています。
サイドベンツはセンターベントよりもファッション性が高く見えるので、スーツをおしゃれに着こなしたいという人におすすめです。
遊び心のある大人の男性にぴったりのスタイルなので、今までセンターベントのスーツしか着ていなかったという人も、ぜひ挑戦してみましょう。
ベントはスーツスタイルの大事なポイント
ベントはスーツの歴史の中で、生まれたディティールのひとつです。
ベントについて知ることで、スーツの歴史の深さも知ることができます。
また、着心地を左右したり、後ろ姿の印象を変える大事なポイントでもあります。たかが切れ目と思わずに、スーツスタイルや自分の体型に合ったベントを着こなしましょう。