トラッド

「トラッド」とは、ファッションスタイルの一つです。
セレブで高貴な家柄の面々が取り入れるスタイルとして認知され、ステータスの高いイメージが先行されがちですが、ビジネススーツに取り入れることで上品で格式のある印象を与えることができます。

スーツの話をしていると、時折話題に「トラッド」という言葉が出てきます。

実はこれ日本独自の呼び方。


本来はトラディショナル・スタイル(traditional style)といって、欧米の伝統的メンズ・スタイルのことを指します。

伝統的メンズ・スタイルと聞いてイメージするものは、スーツが王道でしょう。


つまり「トラッドスタイル」とは、スーツを母体として歴史とともに変化したファッションスタイルのことだと考えてください。


歴史とともに、確立された「トラッドスタイル」には、大きく分けて2つのスタイルがあります。

【ブリティッシュ・トラディショナル】と【アメリカン・トラディショナル】です。


ブリティッシュ・トラッド

ブリティッシュトラッド

※出典
Pitty Savile Row

イギリスといえばスーツ発祥の地。

ロンドン中心部に「サヴィル・ロウ」というオーダーメイドの紳士服店が集中している有名なショッピングストリートがあり、これが日本の「背広」の語源になったとも言われています。

つまり、スーツの基調は「ブリティッシュ・トラッド」(※以下「ブリトラ」)にあると言えます。

ブリトラの主な特徴としては、以下の3つがあげられます。


1.しっかりとした肩パッド

2.スリーピース

3.ウエスト絞り


印象としては″ガッチリ″。

それはきっちりと肩パッドが入っており、肩から袖が尖っているドロップショルダーがあるためです。


そしてスリーピース。

「ジャケットとYシャツの間にベスト(※最近では「ジレ」とも言います)を着る」スタイルのことで、

肘と体に縦長三角形の隙間ができ、胴回りにスッキリとしたシルエットが浮き上がります。


アメリカン・トラッド

アメリカントラッド

※出典
Suit Factory dpi

アメリカン・トラッド(※以下「アメトラ」)とは、アメリカ東部が発祥とするスタイルで、「ブリトラ」と違ってカジュアルでゆるやかなイメージです。

気候や合理的な考え方、東部のアメリカ移民にイギリスの上流階級が少なかった影響により確立したのだと言われています。

 

主な特徴としては以下の3つがあげられます。


1.肩パッドの入らないナチュラルショルダー

2.I型と呼ばれる絞りのないウエスト

3.段返り3つボタン


肩パッドやウエストの絞りがないため、サラッと軽快に着こなすことができます。

段返り3つボタンとは、ジャケットにある3つのボタンの一番上のボタンとボタンホールにラペル(鎖骨から鳩尾あたりまで伸びているV字型の部分)の折り返しがかかっている仕様のことです。

 

あくまで一番上はデザインですから、真ん中のボタンだけを留めるのが「アメトラ」のスタイルだと覚えておくと良いでしょう。

 

こうしたカジュアルスタイルは、その他のオプションにも影響が表れています。

コートならピーコートやダッフルコート、シャツならオックスフォード生地のボタンダウン、ボトムスはウールパンツやチノパンなど「アメトラ」は簡略的で明るいイメージを生み出したのです。


日本的な解釈でのトラッド「アイビー・ルック」

アイビールック

※出典
歴ドラ.com/

「アイビー・ルック」は、戦後の日本が豊かとなった象徴的なファッション文化であり、日本独自のスタイルを確立し始めた原点とも言えるスタイルです。

 

1954年アメリカ東部にあるフットボール連盟を「IVY LEAGUE(アイビーリーグ)」とネーミングされ、その学生たちが好んで着ていた服装を国際衣服デザイナー協会が「アイビー・ルック」と名付けたのが始まりです。

 

日本で一大ブームとなったのは、1964年創刊の平凡パンチが特集が組まれたことがきっかけです。

当時の若者は「これぞ洗練されたファッション」と飛びつき、3つボタンのジャケットや細身のコットンパンツ、スリッポンシューズというアイビールックに身を包んだのです。

  

アイビールックを牽引した日本ブランドといえば「VAN」といって良いでしょう。

アメリカからいち早くアイビー・ルックの文化を持ち帰り、日本にそのファッション文化を根付かせました。そういったアイビー・ルックに身を包んだ学生たちが銀座のみゆき通りに集まるようになり、「みゆき族」と呼ばれ社会現象にもなったのです。

この頃から日本の雑誌ではトラディショナルを「トラッド」と簡略化され定着します。


その後、日本ではニュートラ(New Traditional)、ハマトラ(横浜Traditional)などと呼ばれる女性が主役のスタイルが流行、1980年代に入ると「プレッピースタイル」と呼ばれるアイビー・ルックよりも少しルーズでカラフルなスタイルが確立されます。

 

ファッションの歴史はトラッドなエッセンスを取り入れたカジュアルなスタイルへと変化していったのです。


トラッドを取り入れたスーツスタイル

では、トラッドを取り入れたスーツスタイルについて見ていきましょう。

フォーマルスーツとは違い、いわゆる「アメトラ」または「アイビー・ルック」的なスタイルは人の遊び心をくすぐります。

 

例えばラペルにステッチ(ミシンの縫い付け)が浮き上がっているジャケット。

周囲の人間はこれを見て「カジュアル」で「ユニーク」な印象を持つことでしょう。

 

また、センターベントの縫い合わせ部分がカギ型(フックベント)になっていれば、背中に独特の温かみを与え、隠れたおしゃれを演出できます。

 

・ジャケットのラペルにステッチ(ミシンの縫い付け)が浮き上がっている

・ジャケットのポケットがパッチポケット(貼り付けてある型)になっている

・センターベントの縫い合わせ部分がカギ型(フックベント)になっている

 

こんなふうにジャケットのディテールデザインを少し変化させて、雰囲気を変えるのがジャケット、ひいてはスーツの印象を大きく左右するのです。

ジーンズでいえば赤耳や色落ち、ヴィンテージの型や生地にこだわったりするのと似ています。

 

さらにもう一つ類似している点は「動きやすさ」「着やすさ」も重要だということです。

アメトラは、見た目の形のよさだけでなく、仕事(作業)のしやすさのために作られたものでもあります。

 

快適かつ遊び心を取り入れ、ディテールにもこだわった自分だけのスーツ…。

お洒落ビジネスマンの誕生です。


自分だけの個性的なトラッドを

流行とは時代によって変わり、ファッションスタイルは約10年周期で「タイト」と「ルーズ」を繰り返すともいわれています。

 

ただ、経済成長が停滞して久しい今こそ本当の意味で多様化の時代。

自分の好みやサイズに合った「自分だけのスタイル」が表現できます。

一般的なカジュアルの洋服なら、モモ巾・袖巾を細くして、パッチポケットをつけて、ウエスト回りは絞って…と。

オーダースーツならトラッドスーツをタイトに着るなんていう着こなしだって出来ます。

 

自分だけの「こだわり」、自分だけが知る「着心地」や「満足感」…

トラッドを知ることで、明日からちょっと大人の楽しみが待っています。

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