スーツの襟を見てみると、端に縫い目が付いていることがあります。

ステッチとは、この生地の端にある縫い目のこと。


ステッチが入っていると、襟が丈夫になり、湿気などで浮いてしまいがちな端を押さえて、きれいな形をキープできます。


また、デザインとして入れていることもあり、ステッチの種類によって、スーツの印象を変えることができます。


無地のスーツの場合、パッとしない地味な印象になりがちですが、ステッチを入れることでカジュアルでおしゃれな雰囲気が演出できます。

襟だけでなく、ポケットやフロントラインなど、ほかの部位に入れることで、統一感のあるスーツスタイルになります。


ステッチの種類

ステッチには、縫い目の入れ方によって、いろいろな種類があります。

それぞれの特徴を知っておきましょう。



【シングルステッチ】


シングルステッチ


※出典
SPiCA



【シングルステッチ】は、1本のラインで入れたステッチのことです。


ステッチは、端からどれくらいの間隔でステッチを入れるかによって、さらに種類が分かれます。

端から1〜2mm程度間隔をあけたものは【コバステッチ】と呼ばれており、端からの距離が近いので、目立ちにくく、上品で高級感のある印象になります。


ほかにも、5〜10mm程度の位置で入れることがあり、端から離れているほどカジュアルな印象になってステッチを際立たせることが可能です。



【ダブルステッチ】


ダブルステッチ


※出典
SPiCA



【ダブルステッチ】は、2本のラインでステッチを入れたものです。


2本ステッチを入れることで、さらに強度が増し、デザインとしてもステッチを目立たせることができます。

ダブルステッチは、2mm+8mmや、2mm+10mmなどがあります。



【レールステッチ】



レールステッチ


※出典
Pitty Savile Row



【レールステッチ】は、ダブルステッチと同じように、2本のステッチを入れたものですが、端から9mm離れた位置に1本入っていて、そこから3mmの間隔でもう1本のステッチが入っています。

とても目立つデザインになるので、個性的でラフな印象になります。



【ハンドステッチ】と【AMFステッチ】

ステッチの手法には、【ハンドステッチ】と【AMFステッチ】があります。

同じステッチでも、手法によって風合いやコストが変わるので、その違いを知っておきましょう。



【ハンドステッチ】


ハンドステッチ


※出典

テーラーキスモトの旧オーダースーツ製作日記



【ハンドステッチ】は、その名前の通り、「手縫い」で仕上げたステッチのことです。


職人の手によって丁寧に仕立てているため、着心地が良く、生地を傷めずにしっかりと丈夫な仕上がりになります。


クリーニングを繰り返すと、ミシンで縫ったスーツはシルエットが崩れてしまうことがありますが、手縫いをしたものは、縫い目に余裕があるため、型崩れがしにくいという特徴があります。


ハンドステッチは見た目も美しいので、高級感のあるスーツにはピッタリです。

ただし、手間がかかる分、コストが高くつくことや、ハンドステッチに対応しているオーダースーツ店が少ないため、希望する場合には事前に問い合わせが必要です。



【AMFステッチ】


AMFステッチ


※出典
テーラーフクオカ



【AMFステッチ】は、「アメリカン・マシン・アンド・ファンドリー社(American Machine and Foundry)」のミシンで入れたステッチのことです。

【ピックステッチ】と呼ばれることもあり、それまで手縫いでしかできなかったステッチを、特殊なミシンで再現しています。


通常のミシンで入れる【ミシンステッチ】とは違い、AMFステッチは、ゆっくりとしたスピードで縫っていくため、手縫いの風合いを出すことができます。


縫製技術も必要となるため、手慣れた職人でないときれいに仕上げることができません。


AMFステッチのメリットは、ハンドステッチよりも、コストを抑えながら、高級感のある仕上がりになることでしょう。

そのため、オーダースーツだけでなく、既製品のスーツでもAMFステッチは一般的になっています。


ステッチでスーツをおしゃれに

ステッチの入れ方によって、スーツの表情はガラリと変わります。

ステッチを入れて、スーツをおしゃれに着こなしましょう。


【総ステッチ】で際立ったスタイル作り

スーツに入れるステッチは、襟、前身頃(まえみごろ・ジャケットの前の部分)、胸と腰のポケット部分に入れる【フロントステッチ】が一般的になっていますが、脇や袖、肩ライン、背中、パンツにステッチを入れる【総ステッチ】というものもあります。


全体にステッチを入れることで、フロントステッチよりもステッチのデザインが際立ちます。また、ステッチが入ることで強度が増すので、スーツを長持ちさせたいという方にもおすすめです。


【ピンポイントステッチ】で見えないおしゃれ

ステッチは、表地だけでなく、裏地にも入れることができます。


裏地の端にステッチを入れることを【ピンポイントステッチ】と呼び、強度を増す効果にあわせて、デザインのポイントにもなります。


糸を目立つ色にするとアクセントになるので、チラリと見えた時におしゃれをさりげなくアピールすることができます。


表地にステッチを入れた着こなしができない時にも、裏地のおしゃれなら気兼ねなく楽しめますし、こだわりのある一着として視野に入れておくと良いでしょう。


糸の色や太さを変えてカジュアルさをアップ

ステッチを入れる時に糸の色や太さを変えると、個性的な印象が強くなり、デザイン性を高めることが可能です。


ピンポイントステッチだけでなく、表地のステッチにも色糸を使うことで、自分らしさがアピールできます。


ビジネスシーンで着るスーツは、同色のステッチを入れるのが一般的ですので、カジュアルな着こなしをする時におすすめです。


ステッチでこだわりのある着こなしを

ステッチは、スーツの強度を上げるメリットだけでなく、おしゃれのポイントとして楽しめるディテールでもあります。


ハンドステッチは敷居が高いと感じている人も、AMFステッチなら、気軽にこだわりのある着こなしが実現できるのではないでしょうか。


ステッチは、種類や色などによって、カジュアルにもクラシックにも仕上がるのも、非常に面白いところです。


あなたの理想の雰囲気、スーツスタイルに合わせて、是非とり入れてみてください。