今回の依頼人である奈良さん。
オーダーテーマは、プライベートでもビジネスでも使える一着。

訪れたオーダースーツ店「Sato Tailor(サトウテーラー)代々木店」(東京・代々木)で、店長の森本さんと会話し、どのようなスーツを作っていくかを決めていく。

オーダースーツで最初に決めるのが生地だ。



奈良「冠婚葬祭なので、黒がベーシックなんでしょうか?」

森本「確かにブラックスーツはフォーマルな色ではありますが、逆に基本的にはビジネスでは使えないものとされています。」

ブラックスーツは、冠婚葬祭用に一着は持っていて損はしない。
しかし、日本では一時期の流行によって着られているが、本来はビジネスの場に着ていくものではない。
もし着るのであれば、シャツやネクタイで崩していく上級者のコーディネートが必要になる。

そこで森本さんは、奈良さんが欲しいスーツに合わせてオススメの生地を選んでくれた。



森本「ダークネイビーのシャドーストライプ。ピッチは派手に見えない程度の1cmくらいのベーシックなものはいかがでしょうか。」

森本さんが選んでくれた生地は、イタリアの生地メーカー「CANONICO(カノニコ)」のもの。300年以上続く老舗の機織メーカーで、近年、愛用者も多く人気が高い。

人気の理由は生地の艶感。
その艶やかな光沢に加え、手触りの良さと柔らかな肌触りが特徴で、中でも発色の良さから、カラーはネイビー系が群を抜く。



森本「高品質のうえコストパフォーマンスにも優れていて、世界各国で高い評価を得ています。私自身は目立たないタイプなので、スーツを仕立てる際にはこういった艶感のある生地が好きですね。着飾れるので(笑)」

奈良「これに決めます!自分の好みより、やはりプロの方の意見の方が圧倒的に信用できる。自分でいろいろ悩んでいても、ただ時間だけが過ぎるので(笑)」



とかく時間がかかりがちなオーダースーツの生地選び。
もちろん自分の好みを追求し、時間をかけて探すのも正解だが、ときにはプロのアドバイスに耳を傾けるのも得策だ。

生地を決めたら、スーツの形や裏地、ボタンなどを選んでいく。





同店で仕立てられるスーツの形は、「ジェノバ」「ミラノ」「ローマ」「ナポリ」の4パターン。

スタンダードな着心地でベーシックな「ジェノバ」、ナローラペル(7.5cmの襟幅)で2つボタン、Vゾーンのアキを重視したスリムなラインの「ミラノ」、トレンドである胸にボリュームを持たせたカッタウェイフロットの「ローマ」、肩周りの丸みが特徴のリラックス感のある「ナポリ」がある。



奈良さんの体形は、肩幅が狭く体のラインがかなり細いというのが特徴で、森本さんはその体形を生かしてラインが出やすい「ミラノ」を勧めようと考えていた。

しかし、奈良さんは3つのパターンを着比べたうえで、「ジェノバ」をセレクトした。

奈良「あくまでも着心地を重視したいです。ビジネスにも使えるように。」

オーダースーツの依頼者の大半はビジネスマン。

先の3パターンの特徴を聞くと、やはり営業マンは体が疲れないような形、着心地を重視することが多いそう。

スタイリッシュなラインを求めて別のパターンにすると、仕事着には使いにくいなんてことにもなりかねないので、デイリーで着ることを考える場合は、着心地の良さを意識するのがベターだ。



最後は体の採寸。

首、肩、ウエストなど一つずつ測っていく途中、ヒップを測る際にサイフの話になる。

森本「普段、おサイフはお尻のポケットに入れていますか?」

私服であれ、スーツであれ、サイフはヒップのポケット(ピスポケット)に入れるという奈良さん。

しかし、スーツのピスポケットにサイフを入れるということは言語道断。

一般的にはポケットにサイフを入れられるほどのゆとりは取られておらず、入れてしまうと生地が上に釣られ、裂けてしまう。
許されているのは、せいぜいハンカチくらいなのだ。

森本「では、おサイフを入れられる程度のゆとりを取っておきましょうね。」



実際に着る人のライフスタイルを崩してまで、ルールに則ることはないという森本さん。

いくらスタイリッシュに仕立てたとしても、着る本人がストレスを感じては本末転倒。

個々人の用途に合わせて、スーツを作っているという細かな気配りが、ルール自体をあまりよく理解していない初心者にはうれしい。



生地やパーツ、細かなディティール、採寸を終えて、スーツの発注が終了した。

あとは出来上がりを待つだけだ。

プライベートとビジネスの両方で使える一着、いったいどのような仕立てになるのか。

次回はその仕上がりに迫る!