これまで、セミオーダーでスーツ一式を作るための行程を、順序立てて追ってきた。
ジャケットの素材やシルエット、ポケットの形状やボタンの材質、パンツの形や丈など、その選択は20超。
服を買うこと自体に慣れていない男性諸兄には、いささか難度の高い行為かもしれない。
普段、好き嫌いや感覚だけで衣服を購入している筆者にとっても、正直疲労は隠せなかった。ここまで来れば、さすがにもうやることはないだろうと思っていたが、実はまだある。
オーダーという世界は、その言葉通り、ある意味なんでも依頼することができる。
ここまで決定してきたパーツの選択は、基準となる価格帯の中で選べる最大値。
ここからはより独自性を反映させることができる。
言うなれば、テーラーすら及びつかない一着にすることができるかもしれないのだ。
ただ、これ以降の世界に踏み入るには2つの条件がある。
1つ目は、あくまでも「セミオーダー」だと理解すること。
第1回でフルオーダーとセミオーダーの違いをハンドメイドとマシンメイドと簡単に述べたが、細かい点で大きな違いがある。
それは仕立てるために型紙を起こすか否か。
型紙を作るということは、ゼロからスーツを仕立てることになり、それに合わせて仮縫いのスーツを作り、フィッティングしてさらに調整し、完成に至る。
これこそ一般的にイメージされるオーダーメイドスーツだろう。
セミオーダーの場合は、いくつかあるスーツのタイプから選ぶことで、その工程を省略し、規定路線の中からより自分に寄せた一着を作るという方式だ。
これが通常高いとされるオーダースーツを比較的安価に入手できる最大のポイントだろう。
とはいえ、その範囲内での相談であれば、自由な形にすることもできるため、極端に言えば、セミオーダーでもジャケットの袖をなくすことやパンツを短パンにすることだってできる。
是か非かはさておけばだが…。
何ができるかできないかは、依頼するテーラー次第になるため、ある意味「極端」なスーツを仕立てたければ、この段階ではなく、最初にぶっちゃけてみるのがいいだろう。
2つ目は、これ以降の指定は別料金だということ。
例えば、裏ポケットを高級感のある仕立てに変えるということが可能なのだが、今回依頼した4万円の中にはこの料金は入っておらず、追加オプションとなる。
また、話は戻るが、生地選びの段階でも高価な生地は選ぼうと思えばいくらでもある。
つまり、いいものにしようと思えばいくらでも選択肢はあり、料金の面で言えば青天井ということだ。
最初に決めなければならない要件の1つに「予算」があるのもこれが原因だろう。
スーツの世界が奥深いのもうなずける。
上を目指すのであれば、テーラーと膝を突き合わせて、もっと時間をかけてより良い自分だけの一着を仕立てるのもいいだろう。
いいテーラーであれば、限度はあるがいくらでも付き合ってくれるはずだ。
しかし、もし1着目なのであれば、そこまで欲張る必要はない。
まずは自分の中でベースとなるスーツを作ることが第一であり、それを元に長い年月をかけて一着ずつ仕立てていき、最高のオリジナルを導き出していく。
そのような行為自体を自分の趣味やライフワークにしていくというのも面白いのではないだろうか。
それに、「趣味はスーツ作り」なんて、女性との会話にはもってこいのネタだと思う。