30~40代にもなると、いいスーツを一着くらいは持っておきたくなるだろう。どうせならばオーダーメイドで自分だけのスーツを手に入れたいと思ったことがある人も少なくないはず。
しかし、「高い」「頼み方が分からない」「面倒」といったイメージで結局、購入しやすい既製品に手を伸ばしてしまう。
そんな中、実は最近、オーダースーツが気軽にかつ安価に作れるようになっているそうだ。
そこで、東京・日本橋にあるテーラー「blue. tailoring room.(ブルー.テーラリングルーム)」で、初めてのオーダーメイドスーツを作ってみた。
人生とは選択の連続。それと同じように、スーツをオーダーするためには多くの選択を求められることになる。
生地、ボタン、裏地など、いつまで続くのかと辟易する人もいるかもしれない。
ただ、迷いながらも一歩一歩ずつ進めば、いずれは終着地にたどり着く。
その頃には、最初に何を選んだのか忘れてしまっているだろう。
しかし、そこはプロが側にいるから安心してほしい。
実際に、注文をする際には、テーラーが逐一ペンを走らせていることだろう。
手元には何やらカルテのようなものがあるはずだ。全ての選択は、そこに記入される。
そして、縫製工場へと送られるのだ。
だが、それだけではまだオーダースーツにはならない。
そう、採寸である。
採寸は、一般的に知られるバスト、ウエスト、ヒップのほか、オーダースーツの場合は袖丈(肩から手首あたり)、中胴(お腹の一番出ている部分)、肩幅、首回りといったさまざまな部分を計測する。
もちろん、テーラーは実寸で測るのだが、カルテにはその通りの数字を記入するわけではない。
これこそ、テーラー個々の仕立ての技術に差が出る部分だそう。
計測には個人差は出ない。その数字を基に、袖を数mm短くする、肩を数mm詰める、「ゆとり」と呼ばれる動くための余白を何mmとるといった調整をすることで、依頼者の好みに近づけ、さらには依頼者が求めている以上の仕上がりを目指していくのだ。
ならば、このカルテさえ手に入れられれば、いくらでも自分好みのスーツが作れるのではないだろうか。
だが、このカルテはもらうことはできない。
なぜならば、この採寸の調整こそその店のノウハウでありスキルなのだ。
企業秘密と言っても過言ではなく、客にでさえおいそれと渡すことはできないのである。
テーラーの腕とセンスが問われるこのひと時、彼らがなぜ「仕立屋」と呼ばれるのかがはっきりと分かるのだ。