これまで、セミオーダーでスーツを仕立てていく行程を順序立てて追ってきたが、全てのオーダーを終え、発注してから1カ月半。
ついに件のスーツができ上がったという連絡がテーラーから届いた。
同店では、でき上がったスーツを送ることはせず、直接渡して目の前で試着してもらい、率直な感想を聞くことを心掛けているという。
実際にでき上がったものは、ある意味でデータから起こしたもののため、その人の体に本当に合うか否かは着てみないと分からないのだ。
連絡から数日、店に行くと仕立て上がったスーツが掛けられていた。
ブロックチェックの柄に、ことし流行とされるネイビー、腰回りがキュッと締まったシルエットに、グッと心を引き付けられた。
ジャケットの裏地を見れば、遊び心あふれるピンク。
依頼時に見た生地はかなり明るい色だったが、表の紺色の生地に合わせてみると、思いのほか落ち着いた色合いになった。
でき上がってみないと分からないこともあるというのもオーダーの醍醐味だろう。
兎にも角にも着てみないと始まらないので、試着することにした。
着てみてすぐに分かることがある。圧倒的なフィット感だ。
ジャケットは肩、胸、背中、腹回り、パンツは腰、太もも、膝、ふくらはぎが絶妙な締め付けとゆとりによって包まれる。
腕を上げ、膝を曲げたとしても動作を邪魔せず、なおかつシルエットを崩さない。
ジャストフィットとはまさにこれのことを言うのだろう。
特に印象的なのが尻だ。
ヒップアップしているわけではないが、キュッと肉を押し上げられているかのような感覚になり、見た目も引き締まっているような印象を与える。
体に合った服を着るということは、自身の肉体を理想の状態に高める効果があるのかもしれない。
さらに裏地を見ると、オーダーの勲章ともいうべきネームが入っている。
もちろん既製品でも入れることは可能なのだが、実は刺繍を入れられる場所が変わってくる。
既製品の場合は、でき上がっているジャケットに刺繍をするため、必然と内ポケットの生地の部分になる。
しかしオーダーの場合は、縫製の途中で刺繍することができるため、内ポケットの上や襟裏などさまざまな場所に入れることができるのだ。
内ポケットの生地以外の場所にネームが入っていること、それはオーダースーツの勲章。
鼻につかない程度なら自慢してもいいだろう。
マイスーツを試着して、少し外を歩いてみた。
オフィス街を歩きながら考えたのは、これまで購入してきたスーツが全て無駄だったのではないかということ。
こんなに体に合う一着をそれほど高くない価格で作れるのであれば、最初からオーダーするべきだった。
少し残念な気分になったが、とはいえこれからもスーツを着る機会はたくさんある。
この段階で知ることができて本当によかった。いや、費用面から見れば助かったと言える。
スーツ一着でモテるようになるのか?と問われれば、今回ははっきりYESと言いたい。
少なからず、自分のために自ら動き、自身の体や好みについて改めて見つめる機会をつくり、己を磨くために投資する。
そして手に入れるのは、自らの肉体を美しく見せるための理想の一着。
これを着こなすことができれば、モテないわけがないのである。
さしあたって、努力し、研鑚を積み、オシャレに気を配れる男が嫌いな女性はいないと聞き及んでいるからではあるが…。
気軽に買うことができるオーダースーツは、大手、個人店問わず、全国的に広がりをみせている。
近場の店を調べてみて、一度仕立ててみるのはいかがだろうか。
形として残る発見と衝撃が必ずそこにはある。